ハリネズミと狐―『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)



ハリネズミと狐―『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)
ハリネズミと狐―『戦争と平和』の歴史哲学 (岩波文庫)

ジャンル:歴史,日本史,西洋史,世界史
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トルストイの苦笑

この書物は一応トルストイの戦争観を中心に述べたものだが、ペダンティック歴史家が書いたものとして、いかにも堅苦しい。英国の歴史家は物事を素直に、語ることをしない。この書物はその典型例である。いろいろのことを語るが、結局何を主張したいのかわからなくなって終わってしまう。
 ハリネズミと狐を対比して、それぞれの作家を割り振るが、分かったようで分からない。翻訳ももとの文体が込み入っているので、訳者も適当に端折って訳している。それ相応の扱いと思われる。

100重人格

この作品で紹介されているメーストルという思想家は、当時のロシアではかなりの有名人だったらしい。この「封建主義者」こそ、ドストエフスキーの「大審問官」のモデルであると断言できる。この凄みのある大衆蔑視者に比較すると、トルストイの思想は不鮮明で矛盾を含むものだ。彼はメーストルから影響を受けながらも、終生、正反対のルソーの信奉者であり、ドイツ観念論の歴史観を嘲笑し、谷沢永一(日本の二流文人)の如く人間通こそ真の歴史認識に通ずるとする一方で、人類史を通底する大原理を追い求めてきた。しかしこの多重人格的な思想の持ちようが、彼をして史上最大の作家にしたといえる。相矛盾する思想が、彼の中で荒れ狂い、その時々、憑依するように彼を捕らえ、驚くほど多彩な人物を造型することを可能にしたからだ。偉大な長編作家には多重人格的な人物が多い。



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